いよいよマラソン大会の前日を迎え、「明日は力を出し切れるだろうか」「途中でバテてしまわないか」と緊張や不安を感じている方もいるかもしれません。長い距離を走り切るためには、これまでのトレーニングはもちろんですが、体に蓄えられたエネルギー量が大きな鍵を握ります。
実は、マラソンのパフォーマンスを左右する要因の一つに「前日の食事」があります。どれだけ練習を積んでいても、当日のエネルギーが枯渇してしまっては、思うような走りはできません。この記事では、最後まで走り抜くためのスタミナを確保し、胃腸トラブルを防ぐための前日の食事戦略について詳しく解説します。
マラソンにおけるエネルギー管理の考え方
具体的なメニューを考える前に、なぜ長距離走において前日の食事が重要なのか、そのメカニズムを知っておくことが大切です。マラソンは長時間体を動かし続けるスポーツであり、膨大なエネルギーを消費します。ここでは、体内のエネルギータンクを最大にするための基本的な考え方を紹介します。
グリコーゲンを体内に溜め込む重要性
フルマラソンやハーフマラソンなど、長い時間をかけて走る競技では、体内に貯蔵できるエネルギー源である「グリコーゲン(糖質)」の量が勝負を分けます。通常の状態では、体内に蓄えられるグリコーゲンには限りがあり、長時間の運動中に枯渇してしまう「ハンガーノック(ガス欠)」のリスクがあります。
そこで重要になるのが、食事によって一時的に体内のグリコーゲン貯蔵量を最大化させる調整法です。かつては数日前から極端な食事制限を行う方法が主流でしたが、現在では前日や数日前から炭水化物の摂取比率を高めるマイルドな方法が一般的です。この準備を行うことで、レース後半の粘り強さをサポートすることが期待できます。
消化時間を考慮したスケジューリング
エネルギーをたくさん摂りたいからといって、寝る直前まで大量に食べ続けるのは得策ではありません。食べたものが完全に消化・吸収され、エネルギーとして使える状態になるまでには時間がかかります。また、胃の中に食べ物が残った状態でスタートラインに立つと、走行中の腹痛や不快感の原因になりかねません。
理想的なコンディションで朝を迎えるためには、前日の夕食は早めに済ませることが推奨されます。就寝中に内臓をしっかりと休ませ、翌朝の朝食をスムーズに受け入れられる状態を作っておくことが、レース当日の軽快な動きに繋がります。
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マラソン前日に適した食事メニューの選び方
ここからは、「実際に何を食べれば良いのか」という具体的なメニュー選びについて解説します。基本的には、普段食べ慣れているものの中から、エネルギー効率と消化の良さを基準に選定します。特別なものに挑戦するのではなく、安心できる食材で体を満たすことがポイントです。
炭水化物を中心とした高糖質メニュー
スタミナ不足が心配な方にとって、前日の主役となるのはやはり炭水化物です。ご飯、パン、麺類、お餅といった主食を、普段の食事よりも少し多めに摂ることを意識しましょう。これらは体内で素早くグリコーゲンに変換され、翌日のエネルギー源として蓄えられます。
ただし、同じ炭水化物でも脂質が多く含まれるものは消化に時間がかかるため注意が必要です。例えば、クリームソースのパスタやチャーハン、カツ丼などは避け、シンプルなメニューを選ぶのが賢明です。
おすすめのメニュー例については、以下のとおりです。
- ご飯もの:親子丼(鶏肉は皮なしが理想)、おにぎり、焼きおにぎり茶漬け
- 麺類:うどん(天ぷらなし)、和風パスタ、ミートソース(脂少なめ)
- その他:お餅、カステラ、バナナ
消化の良さを最優先したおかず選び
主食をしっかり食べる一方で、おかずは胃腸への負担が少ないものを選ぶことが大切です。タンパク質は筋肉の修復に必要ですが、脂身の多い肉や揚げ物は消化吸収に時間がかかり、翌日まで胃もたれが残る可能性があります。
メインのおかずには、白身魚や鶏のささみ、胸肉、豆腐など、低脂質なタンパク源を活用しましょう。調理法も「揚げる・炒める」よりは「煮る・蒸す・茹でる」といった方法が適しています。味付けも刺激の強いスパイスなどは控え、和食ベースの優しい味付けにすることで、体調を整えやすくなります。
食事の量とタイミングの目安
「エネルギーを溜めたいけれど、食べ過ぎて体が重くなるのは嫌だ」という悩みを持つランナーは多いものです。前日の食事量は、極端に大盛りにして詰め込む必要はありません。「普段の食事の炭水化物を少し増やす(ご飯を大盛りにする、餅を追加するなど)」程度で十分です。その分、脂質の多いおかずを減らして総カロリーのバランスを取ると良いでしょう。
夕食のタイミングは、就寝の3時間前までには済ませておくのが理想的です。もし仕事や移動で遅くなってしまう場合は、一度にたくさん食べずに分食するか、うどんやおじやのような消化に優れたメニューを選び、量を控えめにして胃腸を休めることを優先してください。
コンディションを崩さないための注意点
前日の食事選びでは、「何を食べるか」と同じくらい「何を避けるか」が重要です。良かれと思って食べたものが、レース中のトラブルを引き起こすこともあります。ここでは、リスクを回避するために控えておきたい食材について解説します。
食物繊維が多い食材は避ける
普段の健康的な食生活では推奨される食物繊維ですが、マラソン前日においては注意が必要です。食物繊維は消化されにくく、腸内でガスが発生しやすくなったり、便の量が増えてトイレが近くなったりする原因になります。レース中にお腹が張ったり、便意をもよおしたりするリスクを避けるため、前日は意識的に控えるのがベターです。
具体的には、ごぼうやレンコンなどの根菜類、海藻、きのこ類、玄米などは控えめにしましょう。野菜を摂る場合は、繊維の少ない葉物を柔らかく煮たり、ポタージュスープにしたりして摂取すると、胃腸への負担を和らげることができます。
生ものや刺激物を控えてリスク管理
大会当日に万全の体調で臨むためには、食あたりのリスクや胃腸への刺激を極力排除する必要があります。お刺身や生卵、生牡蠣などの生ものは、普段は問題なくても、緊張や疲労で抵抗力が落ちている時にはトラブルの元になる可能性があります。
また、激辛料理やニンニクたっぷりの料理、アルコールなども、胃腸の調子を崩したり、睡眠の質を下げたりすることが示唆されています。レースが終わった後の楽しみとして取っておき、前日は消化の良い温かい料理で体を労りましょう。
避けるべき食材や料理のポイントについては、次のとおりです。
- 生鮮食品:刺身、寿司、生卵、加熱不十分な肉類
- 高脂質なもの:揚げ物全般、バラ肉、クリーム系の濃厚な料理
- 刺激物・その他:激辛料理、多量のアルコール、カフェインの過剰摂取
当日朝へのつなげ方とコンビニ活用
前日の食事でベースを作ったら、当日の朝食で最終的なエネルギーチャージを行います。また、遠征先などで自炊が難しい場合に役立つコンビニの活用法も知っておくと安心です。
コンビニで揃う前日・当日メニュー
遠方の大会に参加する場合、前日の食事や当日の朝食をコンビニで調達することもあるでしょう。コンビニには栄養成分表示が明確な商品が多く、計算して食事を摂りたいランナーにとって便利な存在です。
選ぶ際の基準はこれまでと同様に「高炭水化物・低脂質」です。おにぎりであれば、マヨネーズを使った具材(ツナマヨなど)ではなく、鮭、梅、昆布などが適しています。パスタを選ぶ際も、カルボナーラよりは和風きのこや明太子などを選ぶと良いでしょう。
コンビニで手軽に買えるおすすめのアイテムについては、次のとおりです。
- 主食系:おにぎり(鮭・梅)、パックご飯、うどん、カステラ、大福
- 補助食:バナナ、ゼリー飲料、100%オレンジジュース、ヨーグルト(低脂肪)
スタート時間から逆算した朝食戦略
当日の朝食は、レース開始の3〜4時間前に済ませるのが鉄則です。これにより、スタート時には消化が終わり、エネルギーが血中に満ちている状態を作ることができます。メニューは前日の夕食と同様に、おにぎりやお餅、パン(ジャムや蜂蜜などの糖分を含むもの)を中心とした消化の良い炭水化物がベストです。
もし緊張で食欲がない場合は、無理に固形物を詰め込む必要はありません。ゼリー飲料やスポーツドリンク、カステラなどを活用して、必要な糖質だけを確保するようにしましょう。自分の体調と相談しながら、スタートラインに立った時に空腹でも満腹でもない「快適な状態」を目指して調整してください。
まとめ
マラソン前日の食事は、レース当日のスタミナ維持とコンディション管理において非常に重要な役割を果たします。基本は「高炭水化物・低脂質」を意識し、ご飯やうどん、お餅などを中心にしっかりとエネルギーを蓄えることです。
一方で、食物繊維や生もの、脂っこい食事は胃腸トラブルの原因となるため避けるのが賢明です。特別なことをするのではなく、食べ慣れた消化の良いものを、適切なタイミングで摂ることを心がけましょう。しっかりとした食事の準備ができれば、それは「やれることはやった」という自信にもつながります。万全の状態でスタートラインに立ち、最高の走りを目指してください。



